マリア様の絵はがきとカレンダー 12か月シリーズ作品

1月『水仙の聖母』

マリア様のカレンダーの仕事で1番悩んだのが1月です。

めくって最初に目にするのが1月ですから引きがある印象的な絵が良い!自信作を充てる!と言う絵描きもいるでしょう。

水仙のマリア様が完成するまで、私もかなり迷いました。

福寿草のマリア様?蘭のマリア様で華やかなスタートを切る?

でもあまりに強烈な色だとマリア様らしくないし、残りの11枚への期待感が出にくい。(先の月もめくりたい気持ちにさせたいですから)。

そこで清楚な気品のある花、水仙を最初の月に置くことにしました。

2月『牡丹の聖母』

2月のマリア様に牡丹を選んだ理由は、華やかで立体的な上に大きさもある花だから。牡丹の大きさに負けないようマリア様の装いは目線が集まる縞のくっきりした色柄の帯と、生地の厚みを感じさせる絞り柄風の着物にしています。

イエス様の帯は兵児帯。おかっぱ頭で黒髪にしたら、マリア様のこの着物と帯の組み合わせが自然に浮かびました。

マリア様とイエス様。おふたりは幼子のその後の悲劇的な運命を感じているかのように、身を寄せあい、目を伏せています。

3月『桜の聖母』

桜のマリア様とイエス様。聖母子のこのポーズに見覚えのある方もいらっしゃるのではな
いでしょうか。

教会売店やキリスト教グッズ専門店でよく見かける絵葉書のマリア様とイエス様の構図に重ねて日本人のそれに体格を変えて描いています。

マリア様の美しい横顔とイエス様のふっくらした輪郭が印象的な原画ですが私が描いた「桜の聖母」は2人とも細い体に和服を纏い、顔の輪郭も浮世絵のような平面を感じさせるものにしてあります。

聖母の視線ははかなく散る桜に、互いの運命を重ねるかのように空中を見つめています。

4月『蒲公英の聖母』

マリア様の絵を描く時、ベールを被せるか被せないか、は画家にとって大問題です。

袖や裾が縦と横に流れるマリア様の着物。豊かに広がるマリア様の黒髪。

そこにベールが加わると神聖な輝きが加わることになるのですが描き方によっては布団を肩にかけて毛布を頭に被っている?!ように厚い布に覆われたへんてこなマリア様の絵になってしまうので、あまり覆い過ぎないよう、絹の透明感や薄い素材感を損ねないよう、気を付けて仕上げています。

5月『百合の聖母』

マリア様の花と言えば、百合(純潔、美徳)、薔薇(慈愛)、マリーゴールド(深い愛情と敬虔)。特に白百合は、聖母の清らかさの象徴としてマリア様を描いた多くの名画に表現されてきました。

緋色の鮮やかな打掛を纏った聖母は、私がこのシリーズでどうしても描きたかった少女時代のマリア様。

学生の頃修道院の見学で出会った若いシスターがモデルです。

6月『菖蒲の聖母』

シリーズのスタートは菖蒲のマリア様でした。

以前からよく描いていたので菖蒲はすぐ出来ました。

でもマリア様とイエス様のお顔が全然描けず、真ん中に描くべき人物部分が白紙のまま何年も経ってしまいました。

このままだと私、マリア様のこともイエス様のことも一生描けない!

毎日悶々と悩んだ末に技術ではなく内面(信仰)の問題かも、と思った私は、神父様に相談してカトリックのキリスト教入門講座を再受講させてもらうことにしました。(本来は洗礼前の入信希望者が受講する)。そこで拙いながらもマリア様について勉強し、カトリックの特徴でもあるマリア様の慈悲の心、マリア様に寄せる信者達の敬愛の気持ち、祈り、信仰生活について学んだのでした。

7月『睡蓮の聖母』

信仰心が無いと宗教画、聖母マリアの絵が描けない!?

マリア様とイエス様の顔を描こうとして全く描けず、今考えると当たり前の壁に突き当たった私は教会の入門講座を再受講しました。

一年間通う中で気がついたのは「自分の無知」です。

教会学校に通い、小学生の頃からラファエロが大好きで聖母を模写するような子どもでしたからマリア様のことを知ったような気になっていました。

でも実際は何も分かっていなかった。知らない人の顔立ちや表情を描こうとしても筆が止まってしまうのは当たり前です。

もっとマリア様とイエス様のことを知りたい。
そう思うようになりました。

8月『向日葵の聖母』

向日葵のマリア様の作品を描いたのはシリーズを描こうと決めてから12年後です。

当時の神父さまに鎌倉の教会らしい、着物姿のマリア様を描くことを勧めていただいてから10年何も描けず、さらに最初に描いた1枚のマリア様は背景だけで人物が描けず。

12年目から「あの花もこの花も描きたい」「こんなマリア様も描きたい」と思えるようになったばかりの頃にこの絵(向日葵のマリア様)が完成しました。

淡い色調が多い私の作品には珍しく背景は赤、向日葵の黄色、マリア様の着物には紺地に白い雪の結晶紋様が鮮やかに散りばめられています。

9月『桔梗の聖母』

桔梗のマリア様の絵で難しかったのは、花選びです。このマリア様の12か月シリーズでは外観が東洋的で、しかも漢字にした時日本らしさも感じられる季節の花を選んでいるのですが9月ですと、桔梗、竜胆、女郎花、秋を感じさせる草花は沢山あります。

しかし、マリア様の厳かなポーズ(玉座のような椅子に座りマリア様は聖書を読んでいる)に合わせるには、生い茂る草感のある花よりは、ある程度大きさと立体感のある花が必要です。

実は桔梗のマリア様は最初この花ではなく3回くらい花を変えて描き直しているのですが、なかなかうまくいきませんでした。そこで、実際の桔梗とは色やシルエットを変えて、現実にはない桔梗を描いています。

10月『薔薇の聖母』

マリア様の衣装は赤い衣に青いベールなど、決まり事があり、昔の宗教画には様々な制約がありました。

この絵は、マリア様が地球の上に乗り足元に原罪(悪の象徴)としての蛇を踏みつけながら指先から稲妻を出して12の星座を頭上にいだくと言う、伝統的な表現に倣い描いています。

意外に難しかったのは蛇。

肉の厚みがありそれが踏まれている訳ですからペラっとした紐みたいに見えないよう、蛇の絵や写真沢山見てから描きました。薔薇のマリア様ですから、薔薇もさんざん調べて選んではいますが、蛇の方がレベチに時間がかかっており、その意味では蛇とマリア様?と呼んでもいいくらいの絵です。

11月『萩の聖母』

マリア様の着物選びで難しいのは、十二単姿を描く場合です。

本当の十二単は、もっと厚みがあり、この画面の中には収まりきれないほど大きさも広がりもあります。

その十二単姿のマリア様を装飾的な文様の隙間に収めていくのも難しいけれど、十二単の場合、床座りになること、床座り(平安時代は正座ではなく立膝だったらしいですが)での聖母子の構図が西洋画にないことから、萩のマリア様の場合、参考になる絵が殆どなく、自分で創っていかないとなりませんでした。

何度描いても気に入らず、この萩のマリア様の絵はけっきょく5回描き直しています。

12月『椿の聖母』

聖母子の絵を描くとき、大きく分けて椅子に座っているか立っているか、次にマリア様の胸や腕のどのくらいの位置にイエス様を置くのか、を考えます。

その次にマリア様にイエス様が抱かれている(足が浮いている)場合と、マリア様の膝の上に立ったり座ったりしている場合と、マリア様の横にいて自立している場合を選んで描き分けていきます。

この絵は最初バックが青地で赤い椿のマリア様だったのですが、12月は、クリスマスカードとして求める人が多いことから赤地に白椿のマリア様にしました。

マリア様の着物は降誕の祝いを意識して鶴の文様を描いています。